自治体が主催する子ども向け歴史イベントは、地域の文化や伝統を継承する場として重要です。しかしそれだけではなく、子どもたちの「非認知能力」の向上や、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献といった教育的価値もあります。
この記事では、自治体に子ども向け歴史イベントをおすすめする理由、自治体の歴史イベントにおすすめのアクティビティ、「非認知能力」の概要、歴史イベントが子どもの非認知能力やSDGsに貢献する理由、自治体による子ども向け歴史イベントの事例3選を紹介します。
自治体に子ども向け歴史イベントの開催をおすすめする理由
自治体が子ども向けイベントを開催する場合、歴史イベントがおすすめです。ここではその理由を解説します。
子どもの教育にいい影響を与える
歴史イベントは、子どもたちへの教育にいい影響を与えます。地域の歴史をテーマにしたイベントに参加することで、子どもは地域に興味を持ち、より深く知ろうとするきっかけを得ることができます。
さらに、歴史イベントは体験型のアクティビティを導入しやすいのが特徴です。かつてそこで暮らしていた人々の生活や、武将・忍者の戦いを追体験できる催しを取り入れることで、好奇心や創造する力、表現力を磨くことができます。ワークショップ型のアクティビティを取り入れれば、参加者同士の交流が生まれ、コミュニケーション能力の向上にも貢献するでしょう。
地域外の人の注目を集めることができる
子ども向け歴史イベントは、地域外からの集客にも貢献します。地元にちなんだ歴史上の人物や、城跡・寺院・古墳といった史跡をテーマにしたイベントは、その土地ならではの魅力を発信できます。歴史という普遍的なテーマと、参加型のアクティビティを組み合わせることで、世代を超えて注目を集めることができます。
自治体の歴史イベントにおすすめのアクティビティ
ここでは、自治体の歴史イベントにおすすめのアクティビティを具体的に紹介します。
戦国ワークショップ
「戦国ワークショップ」は、戦国時代にタイムスリップしたような気分を味わえるオリジナルワークショップを、10種類以上から選ぶことができるアクティビティです。地域の歴史にちなんでカスタマイズすることもできます。
「戦国ワークショップ」で実施できるワークショップ
- 1.流鏑馬射的:乗馬体験ができる機械にまたがり、乗馬している最中に弓矢で的を狙う、流鏑馬を疑似体験できるアトラクションです。
- 2.手づくり甲冑ー赤備え&黒備えー:「布甲冑」に自分で色を塗ったり、家紋を描いたりして、自分だけの甲冑をつくります。
- 3.オリジナル侍缶バッジづくり:缶バッジに家紋や好きな柄を描いて、オリジナルのバッジをつくります。
- 4.ふぇいすぺいんと顔処:有名武将の家紋や和柄を、顔や腕にペイントします。
- 5.手裏剣道場:的に向かって手裏剣を投げ、忍者気分を味わえる手裏剣体験です。
- 6.甲冑着付け体験:NHK大河ドラマやテレビの撮影で使われている甲冑の着付けを体験できます。
- 7.オリジナル刀ワークショップ:真っ白な刀に色付けやシール貼りをして、自分だけのオリジナル刀をつくります。
- 8.こわっぱ忍者迷路:忍者になって迷路を探検し、無事に脱出することを目的としたアクティビティです。
- 9.投扇興:桐箱の台に立てられた「蝶」と呼ばれる的に向かって扇を投げ、その扇・蝶・枕によって作られる形でその得点を競う、昔ながらのあそびです。
- 10.戦国うちわづくり:竹製の骨組みに、自分で絵を描いた紙面を貼り付けて、うちわを完成させます。
- 11.戦国提灯づくり:紙に絵を描いたりシールを貼ったりして、オリジナルの提灯をつくります。
- 12.幻術!万華鏡づくり:オリジナルの万華鏡をつくります。
- 13.かんざしづくり:アクセサリーを手づくりする感覚で、かんざしをつくることができるワークショップです。
※ワークショップ名や内容はイベントによって一部変わります。
チャンバラ合戦
「チャンバラ合戦」は、やわらかいスポンジ製の刀を使って、相手が腕につけた「命」と呼ばれるボールを落として戦うアクティビティです。勝敗が身体能力に大きく左右されないため、小さな子どもから大人まで参加できます。
また、チャンバラ合戦は「軍議」と呼ばれる作戦会議を重視しているのも特徴です。勝利に向けてともに考え、話し合いをすることで、コミュニケーション能力を楽しみながら養います。
「非認知能力」とは
「非認知能力」とは、勤勉性や共感性、好奇心やGRIT(やり抜く力)といったパーソナルな能力のことです。知能検査や学力試験で測定できる「認知能力」に対して、テストで測定しにくい能力を指します。
非認知能力は、社会生活や将来の成功に大きな影響を与えると言われています。
ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者であるジェームズ・J・ヘックマンらの研究では、恵まれない家庭であっても、専門家が子どもの教育に早期から介入し、非認知的能力を育てることで、成人後の学歴や所得が高くなり、逮捕者率が低くなるなどの効果が認められたとしています。
なお、非認知能力の尺度としては、「行動・情動・社会的スキル尺度(通称:BESSI)」が開発されています。
行動・情動・社会的スキル尺度(Behavioral, Emotional, and Social Skills Inventory; BESSI)
- ・自己管理スキル(勤勉性):時間管理、組織的スキル、一貫性能力、課題管理、詳細管理、規則遵守スキル、責任管理、目標制御、意思決定スキル
- ・社会参加スキル(外向性):リーダーシップスキル、説得スキル、表現スキル、会話スキル、エネルギー制御
- ・協働スキル(協調性):視点取得スキル、信頼の能力、社会的温かさの能力、チームワークスキル、倫理的コンピテンス
- ・情動的回復スキル(情緒安定性):ストレス制御、楽観性の能力、アンガーマネージメント、自信制御、衝動制御
- ・イノベーションスキル(開放性):抽象的思考スキル、創造的スキル、情報処理スキル
- ・複合的スキル:自己省察スキル、適応力、自立能力
参照:総論 認知能力・非認知能力とは何か(小塩真司, 2024)
参照:子どもの貧困と学術研究の隠れた枠組み(佐々木宏, 2017)
歴史イベントが子どもの「非認知能力」向上に貢献する理由
ここでは、子ども向け歴史イベントの開催が、子どもの「非認知能力」の向上に貢献する理由について解説します。
1.意思決定スキルや主体性を育てることができる
歴史イベントで「戦国ワークショップ」や「チャンバラ合戦」に参加することで、子どもたちは意思決定スキルや主体性を育むことができます。
イベントでは、どのワークショップに参加するか、ワークショップでどのような作品をつくるか、チャンバラ合戦でどのような役割を担うかなど、さまざまな判断が求められます。楽しみながら意思決定をすることで、主体的に考え、決定する力を養います。
2.コミュニケーション能力やチームワークを育てることができる
「戦国ワークショップ」では、複数の子どもたちと一緒にワークに取り組むことがあります。お互いに「どんな絵を描く?」「その道具貸して」といったやりとりが発生し、コミュニケーション能力を養う機会になります。
また「チャンバラ合戦」は、仲間とチームを組み、作戦を立てて戦いに挑みます。この過程で、子どもたちは「相手の意見を聞く」「役割を分担する」「状況に応じて行動を変える」といった経験を積み、チームワークを自然に身につけます。
3.レジリエンス(精神的回復力)を高めることができる
レジリエンスとは、困難な状況やストレスに直面したときに、そこから立ち直り、回復する力です。精神的回復力と呼ばれることもあります。
「戦国ワークショップ」では、思い通りに作品をつくったり、アトラクションのミッションをクリアできなかったりするかもしれません。また「チャンバラ合戦」のように勝敗のあるアクティビティでは、「負ける経験」をすることもあります。困難があっても前向きに考えて乗り越える体験は、レジリエンスを身につけるのに重要です。
4.創造する力・表現力が磨かれる
「戦国ワークショップ」では、スポンジの刀や提灯に好きな絵を描いたり、万華鏡やかんざしをつくったりします。自由な発想を楽しめる環境は、創造する力や表現力の育成につながります。
自治体の子ども向け歴史イベントがSDGsに貢献する理由
自治体で子ども向け歴史イベントを行うことは、SDGsにも関わります。ここでは、SDGsのどの目標にどのように関わるのかを解説します。
1.SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」
子ども向けに歴史イベントを行うことで、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」に貢献することができます。さらに目標4−7は、以下のように定められています。
「2030年までに、教育を受けるすべての人が、持続可能な社会をつくっていくために必要な知識や技術を身につけられるようにする。そのために、たとえば、持続可能な社会をつくるための教育や、持続可能な生活のしかた、人権や男女の平等、平和や暴力を使わないこと、世界市民としての意識、さまざまな文化があることなどを理解できる教育をすすめる。」
歴史イベントに参加して、何百年も前の時代に思いを馳せることは、さまざまな文化や持続可能な社会への理解を育むことにつながります。教科書を読むだけでは得られない学びがあるでしょう。
2.SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」
歴史イベントは、SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」にもつながります。
戦国時代など、争いの多かった時代を題材にしたイベントに参加することで、子どもたちはその時代を理解するきっかけを得ます。戦いの厳しさを体感し、「なぜ平和が大切なのか」と考えることができるでしょう。特に、勝敗を競う「チャンバラ合戦」はおすすめです。
3.SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」
自治体で歴史イベントを開催することは、SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にもつながります。
イベントは、行政だけでなく、地域住民、教育機関、観光団体、NPOなど多様な関係者が協働することによって成り立ちます。会場で、地域の飲食店や企業が出店を出すこともあるでしょう。パートナーシップの実践を子どもたちが体験することが、SDGsにもつながります。
自治体による子ども向け歴史イベントの事例3選
ここでは、自治体による子ども向け歴史イベントを実施した事例3選を紹介します。
1.【京都府舞鶴市】田辺籠城戦国まつり2023
「田辺籠城戦国まつり2023」は、京都府舞鶴市で開催されたイベントです。舞台となった田辺城は、「関ヶ原の戦い」の一環である「田辺城の戦い」が起きた場所です。城主・細川忠興の弟である細川幸隆と、その父の幽斎が率いる500名の兵が籠城し、約1万5000名もの西軍と対峙しました。
細川父子は、最終的には西軍の説得に応じて城を明け渡しました。しかし、約2ヶ月の籠城戦により1万5000名の軍が田辺城に釘付けとなり、関ヶ原の戦いの本戦に間に合わなかったことから、東軍の勝利に貢献したとされています。
イベントは、このような地域の歴史を活用することを目的として行われました。参加者が歴史を身近に感じ、1日中楽しめるように「戦国ワークショップ」や「チャンバラ合戦」、合戦武将隊による演舞などの催しが企画されました。
小さなお子様でも歴史を体感できる戦国ワークショップや、「田辺城の戦い」に参戦したような気分になれるチャンバラ合戦など、さまざまなアクティビティを通じて、子どもたちが学びを得る機会となりました。
実施した戦国ワークショップ
- 刀ワークショップ
- 忍者迷路
- ふぇいすぺいんと顔処
- 手裏剣道場
イベント概要
- イベント名:田辺籠城戦国まつり2023
- イベント開催日:2023年10月21日(土)・22日(日)
- イベント開催地:京都府舞鶴市字南田辺12-23 舞鶴公園(田辺城跡)
参照:京都府舞鶴市の『田辺籠城戦国まつり2023』で「合戦フェス」を実施いただきました! | 大人も子供も楽しめるイベント|チャンバラ合戦
2.【埼玉県北足立郡伊奈町】忠次公レキシまつり
「忠次公レキシまつり」は、埼玉県北足立郡伊奈町で開催されたイベントです。町名の由来にもなった伊奈忠次の活躍を伝えるために毎年実施されています。忠次は、徳川家康に仕え、その国づくりを支えた代官頭の1人です。特に関東での河川改修や新田開発で大きな功績を残しました。
祭りの当日は、「戦国ワークショップ」や「チャンバラ合戦」、発掘調査現地説明会、芋掘り体験、地元農家の野菜販売など、地域ならではのさまざまな催しが行われ、子どもから大人まで楽しむことができました。
「忠次公レキシまつり」は2018年から続いているイベントで、地元ではお馴染みの祭りです。子どもたちがさまざまな学びを得ながら、地域への愛着を形成する機会となっています。
実施した戦国ワークショップ
- オリジナル刀ワークショップ
- かんざしづくり
- オリジナル侍缶バッジづくり
- 万華鏡づくり
- 流鏑馬射的
イベント概要
- イベント名:2023忠次公レキシまつり
- イベント開催日:2023年11月12日(日)
- イベント開催地:埼玉県北足立郡伊奈町小室189 頭殿権現社敷地内 およびその周辺
参照:「2023忠次公レキシまつり」にてチャンバラ合戦と戦国ワークショップを実施しました! | 大人も子供も楽しめるイベント|チャンバラ合戦
3.【千葉県習志野市】戦国ワークショップ in Morisia津田沼
「戦国ワークショップ in Morisia津田沼」は、千葉県習志野市のショッピングモール「モリシア津田沼」で2024年に行われたイベントです。地域の夏祭りにあわせて開催されました。
創意工夫をしてオリジナルの提灯や万華鏡をつくったり、体を使って戦国時代を体感したりするアクティビティを行いました。
作品を完成させたときの達成感や、初めてのことに挑戦したときのワクワク感は、子どもたちの自信につながったことでしょう。
実施した戦国ワークショップ
- 流鏑馬射的
- 戦国提灯づくり
- 万華鏡づくり
- ふぇいすぺいんと顔処
イベント概要
- イベント名:戦国ワークショップ in Morisia津田沼
- イベント開催日:2024年7月27日(土)・28日(日)
- イベント開催地:千葉県習志野市谷津1-16-1 モリシア津田沼
参照:【地域の夏祭りに合わせての開催】モリシア津田沼で「戦国ワークショップ」を実施しました! | 大人も子供も楽しめるイベント|チャンバラ合戦
まとめ
自治体が主催する子ども向け歴史イベントは、楽しいだけではなく、教育にも貢献します。「戦国ワークショップ」や「チャンバラ合戦」などを取り入れれば、子どもたちの非認知能力の向上や、SDGsへの貢献も行いながら、盛り上がるイベントにしたてることができるでしょう。
この記事を参考に、歴史イベントを企画してみてはいかがでしょうか。